恋愛願望妄想小説でも書こうと思います・・・  20097.69.28


『200Q』 part1

朝、TVでは、マイケルジャクソンの『スリラー』が何度も流れていた。

みのもんたが、早口でしゃべっていた。

僕は、眠い目を擦りながら、マイケルジャクソンの死を受け止められないでいた。

昨日のワインが残って二日酔いがひどいのか・・・

いや、現実だった。マイケルジャクソンは、死んだ。

DISCOに通っていた頃からのファンの僕は愕然とした。

昨日は、そういえば誰とワイングラスを傾けていたんだっけ?

ゆっくり思い出すことにした。

昨夜は、常連のNやんが隣のスナックに行って、店を閉めようとしたときに

一人の綺麗な女性が入ってきたんだった。

『まだ、いいですか?』

僕は、もちろん肯いた。

『いいですよ、カウンターでどうぞ。』

『ワインを飲まれますか?』

おしぼりを出しながら、たずねると

『ええ、シャンパンはグラスでいただけますか?』

僕は、いいですよと言って、シャンパングラスを2つ用意した。

ルネ ジョリー ロゼ ブリュットを開け、グラスに注いだ。


ブランド・ブランを作り最後に赤ワインを加えるとてもレアな製法で作られるロゼシャンパンだ。

シャルドネ85%ピノノワール15%


泡が綺麗な螺旋を描いて立ち上った。いい感じだ♪

『今夜に、乾杯!』

気品のある香りが漂い、口の中では、力強い果実味と熟成している大人の果実味が
見事に融合し、複雑で、切れ味の良い、まるで蜜のような味わい。
僕の好きな、切れがいいシャンパンだ。

彼女は、ぎん2初めてのお客さんだった。

どうしてこんなに遅く一人で来てくれたんだろう?

涼しげな薄ピンクのブラウスと、白いミニスカート。

とってもセクシーだった。

顔は、僕の好きな伊藤美咲にちょっぴり似ている清楚な感じ。

年齢は、30歳前後といったところか。

なんだか、今夜はついてるなって思いながら、前菜の海の幸を使ったサラダを作った。

『綺麗』といいながら、ナイフ・フォークを上手に使って彼女は前菜を食べた。

『美味しい♪』とっても嬉しい言葉だ。

『もう1杯、いかがですか?』僕は尋ねながらグラスにシャンパンをとびきりの笑顔で注いだ。

『私、あんまり強くないんですよ。』といいながら

ほんのりピンクに染まった頬をして彼女はシャンパンを優しく飲んだ。

ピンクのブラウスとロゼシャンパンと彼女の頬が酔ってきた僕の目にグラデーションとなって映った。

名前は教えてくれなかったが、近くの八日市ロイヤルホテルさんの紹介で

ワインが飲めるお店だからと聞いて来てくれたという。

それから12時過ぎまで、2人で飲んだ。

BGMは、軽いジャズがかかっていた。

照明は、11時過ぎに少し落としたから

とっても大人な深夜ワインバー状態だった。

赤ワインは、 迷わず、ジョルジュ・ルーミエのシャンボール・ミュジニー レ・ザムルーズ2001


素敵な人といつか飲もうと仕入れておいたとっておきのワインだ。

ワイン好きの方ならご存知のコミック『神の雫』の第1の使徒に選ばれたワイン。

シルクのようにしなやかなワイン。

優雅で気品があり、まるで凛とした美しさを持つ彼女の為に選んだワイン。

「恋する乙女たち」って意味のワイン。

まるで恋人達みたいに僕達はいろんな話をワインを飲みながら話した。

最近のマイブームや、幼い頃の話、ワインの話、海外旅行の話、学生時代の恋愛の話。

時折彼女は、僕にもワインを注いでくれた。

赤い液体で満たされていくグラスを見ながら

僕は、ソムリエであることを忘れていた。

時間の経過と共に、ワインはその妖艶な全貌をさらけ出してきた。

全く、素晴らしいワインだった。

時折、彼女は、メンソーレのタバコに火をつけ

その煙がスポットライトに照らされ、いい感じだった。

手相を見ようかって言って、綺麗な白い手に触れたのを覚えている。

詳細は、書けないが・・・

ぶっちゃけ、素敵な時間だった。

このことは、マダムには、秘密だなと密かに思った。

会計を済まし送りだしたとき、外には月が2つ出ていた。

本来ある月から少し離れた空の一角に、もう一個の月は浮かんでいた。

いびつな形の小さな緑色の月だった。

僕は、どうやら200Qの世界に迷い込んだみたいだ。

タクシーを見送ってから、もう一度確認した。

目の錯覚じゃない、確かに月は2つ出ていた。

携帯には、赤外線通信で確かに彼女のメールアドレスが入っていた。

ミュジニーと僕は新規登録したみたいだ。

カウンターには、4つのグラスと2本の空瓶が素敵な時間が確かにこの世に存在したことを証明していた。


『200Q』 
part2

ミュジィ二ーさんから翌日ランチが終わって賄いのカレーを食べてる頃メールがあった。

『昨夜は、とっても楽しくて美味しい時間でしたまた、お邪魔してもいいかしら?』

僕は、何度も校正した文章を打った。

『こちらこそ、楽しかったです素敵な時間をミュジィ二ーさんと過ごせて幸せでした

また、是非お待ちしていますぎん2シェフ 小林 恭』

返事は、すぐには無かった。

六時からの予約のパーティのあと

お開きになり、バイトの子達を帰らし、一人でワイングラスを洗っているとメールの着信音が。

ミュジィ二ーさんだった。

『今から行ってもいいかな?』

僕は、迷わず

『いいですよ、お待ちしています』と打った。

明るくしていた照明を落とし、柔らかいJAZZをかけ、

僕は、カウンターにシャンパングラスを二個用意してミュジィ二ーさんを待った。

タクシーが停まり、彼女は降りてきた。

今日は、ジーンズにクリーム色の薄いニットのシャツだった。

『こんばんは、また来ちゃった。』

微笑みながら、彼女はカウンターに座った。

僕は、用意していたシャンパンを開け

ゆっくりとグラスに注いだ。


アルフレッド・グラシアン キュヴェ・パラディ・ロゼ NV


シャルドネ58%、ピノ・ムニエ18%、ピノ・ノワール24%(8%コトー・シャンプノワ)

ルミアージュ(動瓶)に至るまで全工程手作業一時醗酵をノーマルキュべも含め

全てオーク樽で行い瓶熟期間が通常よりはるかに長い4年〜7年と

その品質への意識・こだわりは尋常ではなくその品質の高さから、

アラン・デュカス、ジョルジュ・ブランピックといった名だたるレストランでオンリストされています。

淡いピンク色のシャンパーニュで、その名の通り、まるで天にも昇る様な味わいだ。


螺旋を描いて、綺麗に泡が立った。

『今日もいい感じだ。』僕は心の中で密かにほく微笑んだ。

『なんだか、昨日の続きをしたくって、マスターに悪いけど、ごめんね。』

とんでもないと言う顔で僕は、彼女に前菜のモッツァレラとトマトのサラダを出した。

『隣で昨日みたいに一緒に食べましょうよ。』彼女の誘いに断るすべも無く

僕は左に座り、二人でサラダを食した。別嬪とシャンパンなんて願ったり叶ったりだ。

『私ね、昨日酔ってたからあんまり覚えてないけど、マスターとキスした?』

僕は、一瞬ドキッ!! とした。僕もあんまり覚えてないけど、

たぶん手相を見た後に彼女の顔が近づいて、確かにキスをされた。

短いキスだったけど、その感触は今日一日ずっと残っていたから間違いない。

『どうやら僕も酔ってたから、良く覚えてないけどしたような気がする。』

『ごめんね、私、学生の頃から酔ったらキス魔になるんだ。』

そういって茶目っ気たっぷりに軽く舌を出して、シャンパンを飲み干した。

『今日は、白ワインを飲みませんか?』

そういいながら、グラスを出して、僕はをお気に入りのラギオールのソムリエナイフで開けた空けた。


シャサーニュ・モンラッシェ1級 モルジョ[1998] ドメーヌ・ラモネ


世界一のシャルドネ使いであるラモネ。

濃い黄金色に、ハチミツ、柑橘系の香り。最初は淡泊な印象。

僕は、厨房に戻り活オマール海老をオリーブオイルでローストして

軽いアメリカンソースをかけた。パンスは茹でてキッチンバサミでたっぷり詰まった中身を

取り出して添えた。付け合せは、旬のアスパラとインゲンにした。

芳ばしい香りが鼻腔をくすぐる。プリプリの感触がたまらない。

モルジュは、時間がの経過と共に独特の樽の強さ、ハチミツっぽい甘さ、ナッツの味わいが際立ってきて、

なかなか骨太で男性的なワインだった。

ミュジィ二ーさんは、いたく気に入ったみたいで、

『私が今まで飲んできた白ワインは、何だったのかしら?』と口にするたびに繰り返した。

僕達は、昨夜と同じようにたわいも無いことを楽しく語り合った。

時折、彼女は、メンソーレのタバコに火をつけ

その煙がスポットライトに照らされ、今日もいい感じだった。

ワインのこと、海外旅行のこと、学生時代のこと、なんかを・・・

ミュジィ二ーさんは、33歳だった。僕と一回り違う同じうさぎ年生まれ。

誕生日は、くしくもぎん2のオープンの記念日96日だった。

『なんだか縁を感じるなぁ』って僕は、嬉しそうに言った。

『ちょっとだけ近づいていい?』というと彼女は、僕の右肩にぴったりくっついた。

ドキドキした。顔がすぐ近くにあった。

耳には、ピアスが光っていた。

長いキスの時間だった。

白ワインのハニーさをテースティングした不思議な感触だった。

このことは、マダムには、絶対秘密だなと密かに思った。

時間は、あっという間に過ぎた。

『私、もううさぎの町に帰らないと。』

『うさぎの町?』

なんだか不思議な言葉を残してレジを済ませ、タクシーに乗り込む彼女を

僕は、もう少し一緒にいたかったなぁって思いながら

窓越しに小さく手を振る彼女を見送った。

僕は空を見上げた。

深く澄んだ真っ暗な空に月が出ていた。

今日も昨日と同じように2つ出ていた。

本来ある月から少し離れた空の一角に、もう一個の月は浮かんでいた。

いびつな形の小さな緑色の月だった。

夜空のひとつの場所に自らの位置を定めていた。

僕はしばらく、ボーと眺めていた。

目の錯覚じゃない、確かに月は2個ある。

僕は、間違いなく200Qの世界に迷い込んだみたいだ。

パラレル・ワールド??

『でも、毎夜こんなシチュエーションだったら、悪くは無いな。』

僕は、酔った脳で考えながらシャッターを下ろした。

そのとき遠くで、『ほうほう』と何かが聞こえた。

『何だろう?』そのとき僕は、これから巻き込まれていく事件には全く気づいていなかった。

カウンターには、4つのグラスと2本の空瓶が素敵な時間が確かにこの世に存在したことを証明していた。


『200Q』 
part3


それからしばらく、ミュジィ二ーさんからは何の連絡もない2週間が過ぎた。

ぎん2は、お陰さまで相変わらず忙しい日々が続き、

僕はすっかり空に2つの月が出ているのさえ忘れて過ごしていた。

そんなある日の土曜日の夜、看板を消して僕が店のシャッターを下ろそうと外へ出たとき

1台のタクシーが駐車場に停まった。

ミュジィ二ーさんだった。

薄いグリーンのサマージャケットに白いパンツルックに高いヒールだった。

『ごめんなさい、もう閉めちゃう?』

タクシーを降りるなり、彼女はそう言って僕を大きな瞳で見つめた。

夏の風に彼女の香水の香りが僕の鼻腔をくすぐった。

『大丈夫ですよ、でもシャッター半分閉めちゃったけどいいかな?

『全然、ありがとう、ちょっとだけお邪魔します』と言って彼女はお店に入った。

僕は、ジャズを小さな音量でかけ、

カウンターだけ照明をつけシャンパングラスを用意した。

僕はなにやら胸騒ぎを感じた。

アンリ・ジロー コード・ノワール NV


輝きのある黄金色の色合い、泡立ちはクリーミーで、香りは熟し、繊細で複雑さを備え、とても美しく、

火を通した洋ナシやさくらんぼの香りが広がり、その後、黄色い花、桃、バニラや白胡椒、

更にはハチミツの香りが感じられます。

さっき嗅いだ、彼女の香水のイメージで選んだ一本だ。

ミュジィ二ーさんは、美味しそうにシャンパンを飲みながら僕に言った。

『マスター、うさぎの町のお話していい?』

僕は、さっとソテーした帆立貝にキャビアを盛り付け

バルサミコソースを掛けて、サラダを作った。

『美味しい、キャビアって本当シャンパンに合うのね!』弾んだ声で彼女は微笑んだ。

僕は、隣に座り一緒にシャンパンとサラダをつまんだ。

口の中で粒々のキャビアがシャンパンで洗われ

そして融和してなんともいえない不思議な触感になって僕の脳を刺激した。

『うさぎの町はね、実は月にあるのよ』彼女は、そういうと僕に一枚の写真を見せた。

普通の町の風景写真だった。でも良く見るとどっか変だった。

そこには、直立して服を着たうさぎ何匹も写っていた。


『これって?』僕は不思議そうに彼女に尋ねた。

どうやら外に出ている小さいほうの月にうさぎの町はあるらしい。

そしてそこには、直立して人間のように生活するうさぎ達の世界があるという。

『実は、私うさぎなんだ。』と彼女は真顔で言った。

『えっ??』僕は、嘘だろうって顔で彼女をじっくり見つめた。

『嘘うそ、でもね、マスターと私はどうやら選ばれた見たいなの。』

彼女は最後のシャンパンを僕に注ぎながらそう言った。

『赤ワイン飲みますか?』

『ボルドーがいいな。』彼女のリクエストで僕は、ボルドーグラスを出しながら

何にしようかなっと頭を働かせた。


シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ラランド 1998


シャトー ラトゥールの隣にある、「超二級格付け」のシャトー。いわゆるスーパーセカンドワイン。

メルロに由来するコーヒー・チョコレート・チェリーの要素が、カベルネ・ソーヴィニヨンや

カベルネ・フランの複雑なブラックベリーやカシスの果実味とうまく合っている。

光を通さないほど濃いルビー色をしており、セクシーな、華々しい香りはトースト、黒系果実、西洋杉を思わせる。
味わってみると絶妙なワインだ。フルボディで、層をなし、多面的で素晴らしい。


ミュジィ二ーさんのイメージにぴったりのワイン。

僕はお気に入りのソムリエナイフでゆっくりとコルクを引き上げそして匂いを嗅いだ。

『パーフェクト。』

テースティングして、少し彼女のグラスに入れた後、丁寧にデキャンタージュした。

『わぁ〜、すごいいい匂い。』彼女は、鼻をくんくんさせて目を閉じた。

ワインのようにとってもセクシーだった。

フォアグラをソテーして、コンソメで煮た大根の上に置きマデラソースをかけて

上にピンクペッパーを散らした。

『私大好きなんだ、フォアグラ。』ほんのりピンクに染まった頬をほころばしながら彼女は言った。

ワインとの相性は、言うまでもなかった。

僕達は、それから時間をかけてうさぎの町の話をした。

だんだん酔ってきて詳細は忘れてしまったが、どうやらうさぎの町の親分に僕達は選ばれたらしい。

彼女は、メンソーレの煙草に火をつけ細く煙を出した。


僕は、それがスポットライトに照らされやがて消え行くのを見つめていた。


次の瞬間、彼女は二重の綺麗な長いまつげの大きな瞳で僕の目を見て

そしてゆっくりと閉じた。綺麗だった。

彼女の唇が僕の唇と重なった。三度目のキスだった。

そのとき僕に電撃が走った。

僕と彼女の全身が光で覆われ、そのまま宙に浮いた。

『ほうほう』どこかであの声が聞こえた。

宙に浮いた光の繭に包まれた僕達は、キスをしたまま店の外へ出され

そして空に輝く二つの月のいびつな形の小さな緑色の月あるうさぎの町に

ぎん2の駐車場に降り注いだ光のトンネルに吸い込まれて行くことになった。


『間違いなく200Qの世界に迷い込んだみたいだ。』遠ざかる意識のなかで僕はそう思った。

誰もいなくなったぎん2のカウンターには、飲み残したワインとメンソーレの煙が存在していた。


『200Q』 
part4


どれくらいの時間が経過したんだろう?

僕が、空に浮かぶ小さないびつな月で目が覚めたのは

ふかふかのベッドだった。

『お目覚め?』ミュジィ二ーがにこやかな笑顔で僕に言った。

『ここは、もしかしてうさぎの町?』僕は、恐るおそる尋ねた。

『そう、私達は光の繭に包まれてここに連れてこられたの。』

そういいながら、彼女は僕に綺麗なグラスに入った水のようなものを差し出した。

喉が渇いていた僕は、ゴクゴクと飲み干した。

そのとき、部屋に一匹の洋服を着て二本足で立ったうさぎが入ってきた。

薄茶色い毛の体長は80cmぐらいのうさぎだった。

『オヤブンガ、ヨンデル。』

抑揚の無い高いトーンの声でうさぎが言った。日本語だった。

僕達は、彼について部屋を出、親分のいる部屋に入った。

親分は、全身銀色の毛の体長1mぐらいの蝶ネクタイをしタキシードを来たうさぎだった。

『ヨウコソ、オレハ”ラヴィン”オマエ二タノミアル。』

低い抑揚の無い声だった。

それから僕は、親分と話しをした。

要約すると、うさぎの町のある小さな月があと3ヶ月で爆発するから、

彼等は、地球へ移住計画を建てているらしい。

彼等は、日本をその地に選び、人類を支配下におさめる計画だという。

彼等の知能は、人類をはるかに上回っているという。

連れてこられた人間は、彼等にコントロールされ、

地球に返され、人類を扇動し、支配していくらしい。

それで地球人の中から僕達が選ばれたらしい。

僕達以外にも何人もの人間が選ばれているらしい。

それで地球人の中から僕達が選ばれたらしい。

『ニホンノセンキョ、モウスグ、ソレデワレワレハ、マズ、ニホンジンシハイスル。』

ラヴィンはそう言うと、僕に握手を求めた。

僕は、彼等の話を何故か全く疑問に感じることなく、聞いていた。

不思議に思った。

『もしかしたら、さっき飲んだ水のようなものに、何か脳をコントロールさせる薬が忍ばせてあったのかも・・・。』

僕は、心でそう思った。

ミュジィ二ーを見ると、彼女は目配せをした。

『やっぱり。』僕は彼等に支配されることになったみたいだ。

うさぎとは、初めて握手した。肉球が柔らかく、手触りのいい手だった。

『サア、パーティーダ。』

別室では、パーティーの準備がされていた。

僕達は、親分の向かいで他の5羽のうさぎ達とテーブルを囲んだ。


シャンパンは、
サロン ブラン・ド・ブラン ブリュット1997


「シャンパンのミステリー」との異名をとり、その生い立ちと製法を知るや、

さぞかし自然の力の妙を感ぜざるを得ないシャンパン。

香りは柑橘類や白い花が主体で柔らかな印象。

レースのような繊細さがたしかに感じられる。

華麗で力強い香り、琥珀の色、泡の美しさどれをとっても完璧。

豪華なディナーだった。

前菜は、根菜のサラダ ホワイトバルサミコのヴィネグレット

スープは、人参のヴィシソワーズ

魚料理は、平目のポワレ マリニエール

肉料理は、仔羊のロースト シェリーヴィネガー風味

デザートは、ガトーショコラとマンゴのシャーペット


振舞われた白ワインは、
ムルソー ジュヌヴリエール(コント・ラフォン)2002


レモンイエロー。トロピカルフルーツ、パイナップル、新鮮な白桃、ショウガ、白コショウ、

ほのかなスギが感じられる華やかな香り。

それらを際立たせるようにクロテッドクリーム、オートミール、ナッツの風味が後に続く。

切れのある酸と絹のような魅惑的な質感が感じられる。複雑で非常に長いフィニッシュ。


赤ワインは、
メオ・カミュゼ・ヴォーヌ・ロマネ1erCRU クロ・パラントゥー1999


苺畑にたたずむ乙女のようなワイン。アンリジャイエがエマニュエルルジェが病気だったので、

作ったとうわさされている、『神様のいたずら』のワイン。

熟成の見える淡いルビー。いちぢく、チェリーという赤い香。

抜群のミネラルとアルコールが上あごに届く。気品に満ちたハリのある果実から、

余韻で浮かび上がるタンニン。深みはあるが重くない。これがブルゴーニュの真髄。

ワインも料理も大満足だった。

まさか、月でうさぎ達とワインを飲んで食事を楽しむなんて思ってもいなかった。

食後の珈琲を飲んでいるとすごく眠くなった。

ミュジィ二ーの顔が近づいた。

4度目の短いキスだった。

僕は、眠ってしまった。

光に包まれている夢を見た。

どれくらい時間が経ったんだろう・・・。

僕が目覚めたのは、夜中の2時だった。ぎん2のカウンターで僕は一人冷静に時間を振り返った。

『月に行ってたよな、確かに・・・。うさぎ達とワインを飲んだ・・・。』

グラスを片付けながら僕はつぶやいた。

いったい明日からどんなことが始まるんだ?

僕には、想像もつかなかった。

『ホウホウ』遠くでまたあの声が聞こえた。

外には、2つの月が出ていた。

衆議院総選挙は、831日、もうそこまで迫っていた。


『200Q』 
part5


僕は、なんだかお尻に違和感を覚えた。

「なんなん、これ?」

お尻に丸い尻尾のようなものが生えていた。ぎん2の更衣室の鏡に映してみる。

まさにうさぎの尻尾だった。

ぴくぴく動く立派な尻尾だった。

どうやら、僕はうさぎ達に体を改造されたみたいだ。

いろんなことが頭を巡ったが、

どうにも眠くて、帰宅して眠ることにした。

「尻尾が生えていることは、マダムや子供たちには、秘密だな。」

そう思いながら深い眠りに入った。

翌日、僕はいつものように市場に行き

魚や野菜を仕入れ、ランチをこなし、一人で賄いのカレーを食べていた。

そのとき電話が鳴った。

「もしもし、マスター、私。ミュジィ二ー。今からちょっと行っていい?」

しばらくして、彼女はタクシーでやってきた。

珍しく、Tシャツにジーンズというラフな格好だった。

「選挙にマスターも私も出ることになったわ。」

「えー、どういうこと?」僕は、意味がわからなく聞いた。

「ラビッ党、から出馬するのよ、日本全国で300議席以上を取るわよ。」

彼女は、親分のラヴィン率いるうさぎの町の住民達が本気で日本をのっとり

果ては、世界制服をたくらんでいること、そして、僕達は、すでに洗脳されていることを早口でしゃべった。

僕は、納得したような、しないような感じで話を聞いていたが、

「前祝に今夜飲みましょうよ。」って彼女の言葉に

そんなことは、どうでも良くなり、OKの返事をした。

ディナーの営業が終わり、最後のゲストを見送ったあと

僕は、シャンパンを用意した。

今日のシャンパンは、最近お気に入りの


エグリ・ウーリエ・ミレジメ 1999


乾燥させたアプリコット、桃、ベーキング・スパイス、ローストしたナッツ、

灰、焼き立てのシナモン・ロール、トーストした樽の甘い香り。

(ーΩー )ウゥーン、生きてて良かったて思えるシャンパン。


ミュジィ二ーは、お昼とはうって変わり、

薄紫のスカート丈の長いワンピースの可愛い、いでたちで現れた。

「お待たせ、さあ、花火しながら飲みましょうよ。」

僕達は、駐車場に出て彼女がコンビニで買ってきた花火をしながら

シャンパンを飲みながら、いろんな花火を楽しんだ。

花火の光に映るミュジィ二ーの横顔があまりに綺麗でセクシーで

僕は思わず抱きしめてキスをした。

長いキスだった。真夏に花火に美女にキス。

僕は、幸せだった。

ちょっとHな気持ちになって、

お尻に手を回したら、そこに尻尾を確認した。

「一緒だね。」

「そう、一緒よ。」

僕達は見つめ合いながら爆笑した。


H
な気分は、吹き飛んでしまった。


お店に戻り、剣先イカのカルパッチョと鱸のソテー・プロヴァンス風をちゃっちゃっと作って

僕達は、カウンターでいつものように仲良く2人でお皿をシェアしながら

楽しく語りながら、シャンパンを飲み、おつまみをつまんだ。

シャンパンを飲み干しワインセラーの白ワインを2人で選んだ。

彼女のリクエストにより、今日の白は、


コシュ・デュリ・ムルソー2006


口に含んだ瞬間に、凝縮感溢れる果実味が広がります。

ムルソーらしいトロリとした感触が舌を包み込みますが、

ナルヴォー特有の酸とミネラルが口の中をリフレッシュしてくれるので、

ついついグラスが進んでしまう逸品。

「流石、名手コシュ・デュリ。こんなワイン飲んだらすべてを忘れるよね。」


選挙なんて、もちろん出馬なんて考えてもいないことだった。

でも、どうやら、うさぎ達が全部段取りしてくれるみたいで、ぎん2も営業しながら、

特に選挙活動もせずにいていいらしいから、楽観できるみたいだった。

そんなんでほんまに当選するのかは、疑問だったけど

僕にとっては、どうでもいいことだった。

「2009年の選挙を楽しもう。」

僕達は、酔いに任せて、上機嫌だった。

選挙に関わってたら、ミュジィ二ーとこうして楽しい時間をいっぱい一緒に過ごせるから・・・

彼女は、美貌を買われ、ラビッ党の広報担当で、どうやら明日からマスコミにバンバン登場するらしい。

今までにないスタイルのTVCMにも出るという。

僕は、「TVを見る楽しみが出来たなあ。」って密かに思った。

ラビッ党は、すべての選挙区に候補者を出し

大統領制と軍隊を持つことをマニュフェストに掲げ

選挙戦に臨むという。党が過半数を取れば、大統領にはラヴィンが就任するという。

そして、日本は、征服される。

選挙に出馬するのは、みんな、小さな月に僕と同じように拉致られ、マインドコントロールされた人たちだ。

そしてみんなに僕と同じように尻尾が生えている。

ラビッ党党首は、ラヴィン。全国に銀色の毛並みの美しい党首のポスターがあちこちに貼られ、

異様な光景が見られるという。

マスコミの下馬評では、どうやら次期政権を担うとして山鳩さん率いる主民党が優勢といわれているのだが・・・

果たして、ラビッ党は、選挙で勝てるのか?

日本は、うさぎたちに征服されてしまうのか?

果たして僕は、当選するんでしょうか?

彼女を見送ったあと夜空を見上げた。

今日も月は2つ出ていた。

本来ある月から少し離れた空の一角に、もう一個の月は浮かんでいた。

いびつな形の小さな緑色の月だった。

夜空のひとつの場所に自らの位置を定めていた。

月にはうさぎの影が見えた。

あそこにうさぎの町があり、もうすぐ爆発する。

面倒なことになりそうだ。


200Q
の世界は、僕の周りに確かに存在していた。


遠くで『ほうほう』と今夜もあの声が聞こえた。

選挙まであと1週間、明日の日本が危ない。

救うのはあなたの1票です。


『200Q』 
part.6


うさぎたちのマインドコントロールによって開票日の

選挙結果

ラビッ党 308議席

主民党   69議席

民自党   50議席 

明公党   21議席

産共党    9議席

民社党    7議席

その他   16議席

となって僕たちのラビッ党が政権をとることになった。

僕は、近畿ブロック比例区名簿順位50位での当選だった。

まったく選挙活動せずに国会議員。なんだか不思議なシステムだと思った。

ミュジィ二ーは、もちろんトップ当選だった。

ラビッ党党首は、ラヴィンは、これで日本を牛耳るかに思えた。

ミュジィ二ーと僕は、国会召集の前日2人だけでぎん2で当選祝いのパーティーを開いた。


シャンパンは、ドゥ・ヴノージュ・ルイ15世[1995


「国会議員に乾杯!」

フランス国王の名を冠したシャンパンだけに、飲めば高貴な力強さが口の中に広がるのを感じます。

料理は、エスカルゴのブリオッシュと

鯛のバプール・マリ二エールソース

松茸と鴨のコンフィを用意した。

ルイ15世。ピノ・ノワールのしっかりとした骨格とシャルドネの繊細さが、

このシャンパンをきめ細やかで濃厚、そして上品な中にも大胆さを秘めた複雑な

味わいをもった逸品に仕上げています。

そして、シャンパンが空いて白ワインを二人で選んでいるときに

外で大きな爆発音がした。

僕たちは、外へ出た。異様に明るかった。

夜空を見上げて、驚いた。

空は真っ赤に燃え上がっていた。

まるで大きな花火のようだった。

うさぎの町のある小さないびつな月が爆発したみたいだった。

小さな月は、爆発すると思われた予測日より2ヶ月も早く大爆発を起こして吹っ飛んだ。

それは、真夜中のうさぎたちが日本に引越しする準備をしていた夜だった。

ラヴィンはじめ、すべての小さな月のうさぎ住民たちは、全滅してしまった。

この大爆発によって、あっけなく、ラヴィンたちの野望は消え、そしていびつになっていた、

時空のひずみが正され、200Qのパラレルワールドは解消してしまった。

僕たちに生えていた尻尾は、いつの間にか消えていた。

ミュジィ二ーと見詰め合って、苦笑した。

僕たちは、その後抱擁し

長いキスをした。

「もう私行かなくっちゃ」

「もう?」僕は何でって思って彼女の目を見たが、

哀しい眼差しの彼女を止めることはできなかった。

タクシーを呼び、彼女を見送って僕は、空を見上げた。

そこには、ひとつだけ、真ん丸い月が碧く輝いていた。

『ホウホウ』 というあの声はもうしなかった。

僕は、2009年の夏を振り返って、

用意して食べ損なった料理をつまみに

カウンターで一人グラスを傾けていた。

まだ椅子に残るミュジィ二ーのぬくもりに手を当て

一人ゆっくりと飲んだ。

彼女と今夜飲もうと思っていた

ドメーヌ・アンヌ・グロのリシュブール2001を・・・

アンヌ・グロはブルゴーニュでも屈指のキャリアのある女性だ。

とてもエレガントな香り。ミネラルにあふれ、美しい大地香が見事で

複雑に甘く、どこまでも優しく、深遠で繊細でめちゃくちゃ旨い。

そしてミュジィ二ーのように甘美で切ないワインだ。


僕には、わかっていた。もう彼女が僕の前に現れることがないことを・・・。

飲み進むにつれ、僕の記憶は遠くかなたへと押しやられ


店には咽ぶような妖艶な香りが充満していた。

それは、紛れもない2009年の秋の訪れだった。

国会がその後どうなったかは僕には関係のないことだった。

人肌恋しい秋、素敵なワインと出会うように次の恋はやってくるだろうか・・・



おしまい